ネット広告が違法になるケースとは?規制強化の内容を事例とともに紹介
スマートフォンやパソコンでネット広告を見るのが当たり前になっている現代。
ネット広告には様々な規制があり、消費者の個人情報など利益を守っています。
この記事では、ネット広告の違法性に関する問題点や規制強化の内容を紹介。
個人情報保護の観点などネット広告に関するトラブルの事例について解説していきます。
<この記事で分かること>
・ネット広告規制の内容
・ネット広告と個人情報(クッキー)に関する問題
・ネット広告の違反事例
・今後のネット広告が抱える問題
ネット広告が違法になる?
毎日のように使うパソコンやスマートフォンでは、インターネット上の広告を見かける機会が多数あります。
ニュースサイトを使う際、SNSを見る際、ネット広告を見る機会は多様です。
消費者の利益を守るため、いくつかの法律がネット広告を規制しています。
ネット広告規制の強化
ネット広告は便利である反面、法律やルールを守らない事業者が出ているのが現状です。
ネット広告の市場規模は国内で1千億円以上ともいわれます。
ネット広告が配信されるには、個人情報保護など消費者の利益を守るための規制が存在します。
規制の内容をそれぞれ確認していきましょう。
国内売上1千億円以上が対象に
政府は2022年7月、ネット広告の規制強化に関する政令を閣議決定しました。
産経新聞の報道によると、規制の対象となる国内売上額は1千億円以上にのぼるとのことです。
ネット広告の取引状況に関して情報開示を義務化することで透明性を確保。
消費者の安全性を守ることを目的にした規制強化が行われます。
政府は5日、巨大IT企業の取引透明化を促す法律にインターネット広告分野を追加する政令の改正を閣議決定した。規制の対象とする事業者の規模について、自社の検索サービスやポータルサイトにオークション形式で広告を掲載するタイプでは国内売上額を1千億円以上とし、広告主と広告を掲載するサイト運営者を仲介する場合は500億円以上と決めた。
引用:ネット広告規制を閣議決定 国内売上1千億円以上対象|産経新聞
ターゲティング広告の規制
規制強化の主な対象はターゲティング広告によるものです。
ターゲティング広告とはユーザーやWebコンテンツの情報を分析して最適な広告を表示する方法です。
PCやスマートフォンに保存されているクッキーに紐づいた個人情報に関連する広告を表示することで、ユーザーが関心の高い分野の広告を表示できます。
クッキーとは個人がウェブサイトを閲覧した際に端末へ保存される一次情報のことです。
クッキーにはユーザーの閲覧履歴に関する情報を保存することで、ユーザーが関心の深い広告が表示できるというメリットがあります。
一方で、クッキーのデメリットは個人を特定できる情報が含まれている場合があるため、個人情報保護法で守られる対象になります。
ネット広告が規制強化される際にも、クッキーの取り扱いは慎重に取り扱わなければならないという観点です。
<クッキー(Cookie)とは>
Cookie は、アクセスしたウェブサイトによって作成されるファイルです。閲覧情報を保存することで、オンラインでのユーザー エクスペリエンスを向上させます。サイトでは、Cookie を使用して、ユーザーのログイン状態を維持したり、ユーザーのサイトの利用設定を記憶したり、ユーザーの地域に関連する情報を提供したりできます。
Cookie には次の 2 種類があります。
・ファーストパーティ Cookie: アクセスしているサイト、つまりアドレスバーに表示されているサイトによって作成されます。
・サードパーティ Cookie: 他のサイト、つまり現在ウェブページに表示されているコンテンツの一部(広告、画像など)を所有しているサイトによって作成されます。
(参考:Cookieとは|Google)
ネット広告規制に関する法律
日本においてはネット広告規制に関して法律による規制が定められています。
これらの法律は消費者の正常な判断を損なうことがないよう、商取引に関するルールを規定しています。
それぞれの内容を確認していきましょう。
景品表示法(景表法)
景品表示法、あるいは景表法は景品類の表示や不当表示を規制する法律です。
正式名称を「不当景品類及び不当表示防止法」といいます。
事業者が取引を有利にするため恣意的な表示で消費者の判断を誤らせることがないような規定が設けられています。
優良誤認表示や有利誤認表示が規制となる対象です。
- 優良誤認表示:商品やサービスを実際よりも著しく優良であると表示すること
- 有利誤認表示:取引条件を著しく有利に見せかける表示
消費者契約法
消費者契約法は消費者の誤認によって消費者の利益を損なうことを防ぐ法律です。
消費者と事業者の情報および交渉力格差を埋めることを目的とします。
消費者契約法では不当な勧誘による契約の取消しと不当な契約条項の無効等を規定しています。
薬機法
薬機法は医薬品などの品質、有効性、安全性を確保するための法律です。
正式名称を「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」といいます。
医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器、再生医療等製品が薬機法の対象となります。
健康増進法
健康増進法は国民の健康維持と現代病予防を目的として制定された法律です。
健康増進法では特定保健用食品の取り扱い、受動喫煙防止が定められています。
個人情報保護法
個人情報保護法は個人のプライバシーを守ることを定めた法律です。
個人の権利利益を保護することを目的とし、個人情報の取扱いに関する決まりが定められています。
ここでいう個人情報とは、氏名や生年月日など個人を特定できる情報を指します。
事業者は消費者の個人情報を有益に利用できる一方、消費者の個人情報は個人情報保護法で守らなければなりません。
ネット広告の違反事例
ネット広告の違反を巡っては過去に景品表示法などを巡って様々なトラブルが起きています。
ここでは、ネット広告の違反事例をいくつか見ていきましょう。
健康食品に関する違反ネット広告
ネット広告では健康食品をPRするものが多いです。
健康食品では効能について正しい情報を記載しなければなりません。
事業者は健康食品について、客観的で正しい根拠のある表示をする責務があるのです。
食品に関して「健康保持増進効果等」について、著しく事実に相違する表示をし、または著しく人を誤認させるような表示は「何人も」禁止されています。
引用:健康増進法第65条
葛の花由来イソフラボンに関する表示
2017年に「葛の花由来イソフラボン」に関する表示について、16社が行政処分を受けるという事件がありました。
同製品を広告するにあたり、「対象商品を摂取するだけで、誰でも容易に、内臓脂肪(及び皮下脂肪)の減少による、外見上、身体の変化を認識できるまでの腹部の痩身効果が得られる」かのような表示をしていました。
しかし、実際にはこのような痩身効果を示す客観的な根拠は存在しておらず、景品表示法における優良誤認に該当すると判断。
法律に基づき、16社には業務改善などの措置命令が下ります。
措置命令の内容としては、表示の内容が景品表示法に違反していたことを一般消費者に周知すること、および再発防止策を講じて従業員に徹底することが命令されました。
また、株式会社ニッセンについては対象商品の販売を終了し、全購入者に対して購入額の全額返金の措置をするように講じました。
(参考:葛の花由来イソフラボンを機能性関与成分とする機能性表示食品の販売事業者16社に対する景品表示法に基づく措置命令について|消費者庁)
「送料無料」の表示
よくあるインターネット上広告の問題例として、「送料無料」の表示があります。
「送料が無料になる配送地域は東京都内だけ」という条件があるにも関わらず該当の文字列を小さく表記した場合、消費者は配送料の条件を勘違いしてしまいます。
この場合、地方から商品を注文した消費者は取引条件を錯覚したまま注文してしまう恐れがあるでしょう。
このように、消費者が見落とす恐れのある文字サイズや配色には十分に配慮しなければ正しく情報を伝えきれないという問題があります。
ネット広告の問題点
ネット広告を運用するには個人情報の問題やIT業界の問題など、様々な課題を抱えています。
事業者が利益を確保するためには、効率的なネット広告の運用が欠かせません。
一方、利益を追求する余りに消費者の安全がないがしろになってしまうこともあるでしょう。
事業者がモラルを持ってネット広告を運用することが求められます。
個人情報の保護
現在のネット広告では個人情報を適切に保護することが求められます。
ターゲティング広告では個人情報に紐づかれた情報(クッキー)をもとに広告を掲載します。
クッキーの情報は広告の効果を最大限に発揮できる反面、正しく取り扱わなければなりません。
クッキーでは利用者の消費行動を予測できる反面、個人情報を特定できてしまうものでもあります。
2022年4月1日に施行される改正個人情報保護法では、「個人関連情報」として新たに定義されるものとなりました。
IT業界が抱える課題
ネット広告に関する問題はIT業界が抱える課題でもあります。
広告主が意図しない掲載先に広告が表示されることがあります。
例えば、海賊版サイトなどの違法サイトに広告が掲載されてしまうと企業ブランドの毀損にも繋がってしまうでしょう。
法律やルールを守らない事業者も数多く報告されており、IT業界が取り組まなければならない課題です。
モラルに関する問題
ネット広告を表示する場合はモラルに関する問題が関わってきます。
法律で消費者を守るための規定があっても、事業者に消費者を騙そうという気持ちがあっては解決策にはなりません。
また、広告を見るユーザー側も情報を鵜呑みにするのではなく、正しい情報を取捨選択する意識が必要です。
健全なネット広告が運用されるには、事業者もユーザーも正しいモラルを持たなければなりません。
ネット広告の歴史
インターネット上の広告はテクノロジーの進歩と共に形を変えてきました。
従来は1対1の予約型広告が主流であったものの、通信技術や広告運用技術などテクノロジーの発展とともにネット広告は形を変え続けています。
ここでは、従来のネット広告から現代のネット広告までに至るまでの歴史を見ていきましょう。
予約型広告
2000年以前は予約型広告(リザベーション広告)が主流でした。
予約型広告とは広告主とメディアが1対1で広告掲載枠を定める広告です。
予約型広告ではあらかじめ掲載内容や掲載金額などが決まっています。
運用型広告(プログラマティック広告)
運用型広告(プログラマティック広告)とは掲載枠が固定しておらず、リアルタイムで掲載内容が変動する広告です。
広告主は予算や広告や関連キーワードを柔軟に変更できるというメリットがあります。
また、ターゲティング広告により広告のターゲットを絞れるため、広告の運用コストも下がりました。
リアルタイムで広告の運用実績が分かるため、成果が出ていない広告は掲載をストップすることも可能です。
ネット広告のプラットフォーム増加
ネット広告の発展にはプラットフォーム増加も背景に挙げられます。
企業サイトだけではなく、誰でも個人サイトで広告が掲載できるようになりました。
また、SNSによる広告も一般的になっているため、私たちがネット広告を目にする機会はますます増えています。
一般的に目にする機会が増えてきたからこそ、広告掲載主は消費者を守るするためのモラルを持たなければなりません。
違法なネット広告は規制される
ネット広告に関する規制の内容やネット広告の問題点を紹介しました。
ターゲティング広告によるネット広告は便利である反面、消費者の利益を損なう恐れもあります。
ネット広告はテクノロジーの発展に伴い、ターゲティング広告など効率的な広告運用を実現できるようになりました。
しかし、ネット広告を運用するためには消費者の個人情報に配慮すること、景品表示法を意識するなど法律に関する問題を意識しなければなりません。
法律と同様に、ネット広告を運用するには適切なモラルが求められるのです。