かっぱ寿司社長逮捕の理由|「営業秘密」の外部提供や不正入手の法的責任は?

「かっぱ寿司」を運営するカッパ・クリエイト元社長、田辺公己容疑者(46)らが2022/09/30に不正競争防止法違反容疑で逮捕されました。

田辺元社長が競合する「はま寿司」の内部データを不正に取得し、カッパ社への転職後に業務で使用した疑いの構図を明らかにし、これを記事にまとめます。

営業秘密を侵害したとして逮捕

朝日新聞デジタルより

事件の概要

警視庁は2022年9月30日、「回転ずし大手「はま寿司」の営業秘密を不正に取得したなどとして、かっぱ寿司」を運営するカッパ・クリエイト社長、田辺公己容疑者(46)ら3人を不正競争防止法違反(営業秘密領得)などの容疑で逮捕しました。

警視庁は2021年6月からカッパ本社など関係先を家宅捜索し捜査を進めていました。

<POINT>

  • 競合企業の営業秘密侵害で、上場企業の現職社長が逮捕されるのは異例
  • 持ち出された営業秘密がカッパ社内で共有活用されたとみて、警視庁は法人としてのカッパ社も同法違反容疑で書類送検する方針

田辺公己容疑者の略歴

カッパ・クリエイト元社長田辺容疑者は外食最大手ゼンショーホールディングス(HD)出身で、子会社のはま寿司で取締役を務めていました

<その後>

  • 2020年11月:外食大手コロワイド傘下のカッパ社顧問に転職
  • 2021年2月 :副社長を経て社長に就任

逮捕容疑は

<逮捕容疑>

  • 2020年9月末ごろ:田辺容疑者はゼンショーHDに在籍していた際に、はま寿司の仕入れ値などのデータファイルを外部サーバーにアップロードさせて不正に取得した疑い
  • 2020年11~12月:カッパ社に転職後に同僚に送信するなどして開示・使用した疑い

不正競争防止法の適用

不正競争防止法は企業の営業秘密を不正に取得する行為などを禁じています

<不正な利益を得る目的で違反した場合>

  • 懲役10年以下か罰金2千万円以下、またはその併科と規定
  • 法人への両罰規定もある
カッパ社は東証プライム上場で、全国に約300店を展開している。
22年3月期の連結売上高は672億円。

「かっぱ寿司」社長逮捕、問われた営業秘密とは?

読売新聞オンラインより

ここでは「営業秘密とは何か?」「捜査の方向性」について」説明します

  1. 「営業秘密」とは?
  2. 過去の同種事件は?
  3. 捜査の方向性は?

1.「営業秘密」とは?

不正競争防止法では、事業者の公平な競争を確保することを目的とし、企業が秘密として管理する技術や営業の情報を「営業秘密」と定義されています。

また、不正に利益を得る目的で、営業秘密を取得するなどの侵害行為を禁じ、罰則を設けています。

経済産業省資料から作成

<営業秘密>

  1. 秘密として管理されている
  2. 事業などに有用
  3. 公然と知られていない

上記3つの要件を満たす情報のことです。

この事件で、警察が営業秘密に当たるとみているのはライバル「はま寿司」の仕入れに関するデータのことです。

かっぱ寿司社長逮捕の場合においては

田辺社長は外食最大手ゼンショーホールディングス出身で、過去にグループの回転ずし店大手「はま寿司」で取締役も務めていました。

そして、外食大手コロワイド傘下のカッパ社に転じる前に、はま寿司の仕入れ価格などに関するデータを持ち出した疑いが持たれています。

2.過去の同種事件は?

2003年の不競法改正により、営業秘密を侵害する行為への刑事罰が導入されました。

その後、経済のグローバル化などを背景に、営業秘密を国外で使用・開示する行為を処罰対象に加えたり、罰則を引き上げたりといった改正を重ねています。

<営業秘密漏洩の主な例>

2014年東芝の半導体メモリーに関する研究データを
韓国企業に漏らしたとして、東芝の提携先
メーカーの元社員の男を警視庁が逮捕
2019年アシックス元社員を靴の性能データを不正に
持ち出したとして兵庫県警が逮捕。
元社員は同業他社に転職
2020年積水化学工業の元社員を自社技術の機密情報
を中国企業に漏らしたとして大阪府警が
書類送検
2021年ソフトバンク元社員を5Gに関する技術情報
を不正に持ち出したとして警視庁が逮捕。
元社員は楽天モバイルに転職

海外漏洩例:東芝の半導体メモリーに関する研究データ

2014年に表面化した東芝の半導体メモリーの研究データを巡る事件は、罰則強化のきっかけの一つとなりました。

この事件は提携先の元技術者が無断で複製し、転職先の韓国企業に漏洩したものです。

事件を受けた2015年の法改正で、盗んだ情報を海外で使った場合の企業の罰金の上限が3億円から10億円に引き上げられました。

国内漏洩例:ソフトバンクの技術情報の不正持ち出し

国内の企業同士でも事件に発展するケースは多く見られます。

2021年にはソフトバンクの高速通信規格5Gに関する技術情報を不正に持ち出したとして、ソフトバンクから楽天に転職した男性が警視庁に摘発されました。

情報が営業秘密に当たるかどうかを争われた過去の裁判例

トヨタ自動車グループの「愛知製鋼」のセンサー開発を巡る技術情報が他社に漏洩したとされた事件では、名古屋地裁が情報は営業秘密に当たらないと判断されました。

この裁判例は不競法違反罪で起訴された愛知製鋼の元専務らに名古屋地裁が無罪判決を言い渡し、22年4月に確定したものです。

増加する営業秘密の侵害

人材の流動化などが進み、企業が抱える漏洩リスクは高まっています。

警察庁によると、全国の警察が21年に検挙した営業秘密侵害事件は23件で過去最多となりました。

捜査の方向性

2021年6月警視庁はカッパ本社など関係先を家宅捜索し、捜査を進めてきました。

捜査の焦点となるのは、情報が営業秘密に該当するかどうかです。

営業秘密に該当するか

今回持ち出したとされるデータは店舗で提供する食材の仕入れ先や価格などが含まれていました。

<POINT>

  • 有用性:競合の手の内が分かれば、仕入れ先との交渉などに生かせる可能性がある
  • 非公知性:データが公然と知られていないのは明白で、はま寿司の社内でもアクセスできる社員は限られていた

法人の両罰規定

不正競争防止法の営業秘密侵害罪には法人の両罰規定があります。

法人の代表者や従業員が自社の業務に関し、他社から流出した営業秘密を使うなどした場合、行為者だけでなく法人も罰せられる規定です。

両罰規定の適用例は極めて少ないですが、警視庁は社内での共有状況についても解明を進めるとみられています。

動機の解明

2020年11月、田辺社長がカッパ社に転職した時期は、コロナ禍で、外食産業が苦境に陥っていた時期と重なります。

そうしたことも考慮されながら、捜査では田辺社長の動機の解明も重要なカギとなります。

異例!「カッパ社」立件、不正競争防止法違反容疑

記者会見で頭を下げるカッパ・クリエイト山角社長(読売新聞オンラインより)

2022年10月2日警視庁は、法人としてのカッパ社を不正競争防止法違反容疑で書類送検しました。

これは、元社長の田辺容疑者が持ち出した情報を複数の幹部間で共有した疑いがあり、同庁はカッパ社が組織的にデータを利用したと判断したものです。

営業秘密持ち出し浮かぶ構図

日本経済新聞nikkei.comより

田辺容疑者は2020年9月中旬、ゼンショーHDに退職の意向を伝え、同月下旬から有給休暇を取得しました。

職務で知った情報を外部に漏らさないとする秘密保持の誓約書に署名していたと明らかにしています。

それにもかかわらず、田辺容疑者は元部下にはま寿司の内部データのファイルを外部サーバーにアップロードさせ、データはその後、USBメモリーに移され、田辺元社長の手に渡ったとみられています。

組織的にデータ利用

元部下がアップロードしたデータには、営業に関する情報など多数のファイルが含まれていたという。

警視庁はこの中で営業秘密と認定した仕入れに関する2つのファイルが不正競争防止法違反にあたると判断

田辺容疑者は転職後、同社商品企画部長で同法違反容疑で逮捕された大友英昭容疑者(42)とデータを使い、商品原価を比較した表を作成するなどした疑いがあります。

関係者によると、田辺元社長は逮捕後の調べに対し、仕入れデータの取得などを認めたうえで「不正競争防止法はよく知らなかったが、社内ルールに違反していることは認識していた」などと話しているといいます。

検察当局は今後、田辺容疑者だけでなく、法人としてのカッパ社についても社内の共有状況などを調べたうえで、起訴するかどうか判断するとみられます。

<POINT>

  • 営業秘密侵害を巡っては、情報の持ち込みを受けた企業が流出元から損害賠償を求められることもある

同種の過去の損害賠償請求

<楽天モバイルに転職したソフトバンクの元社員が高速通信規格「5G」の技術情報などを持ち出したとして不競法違反容疑で逮捕された事件>

  • 2021年5月ソフトバンク側が、1000億円規模の損害賠償請求権が存在すると主張し、その一部として10億円の支払いを楽天側に求める訴訟を東京地裁に起こした

営業秘密侵害事件に詳しい岡本直也弁護士は「転職先に前職の情報を持ち込むケースは増えている企業は刑事、民事両方の責任を問われるリスクが潜むことを自覚し、持ち出しや安易な他社情報の使用を防ぐ対策や社員教育を徹底する必要がある」

日本経済新聞nikkei.comより

まとめ

「かっぱ寿司社長逮捕」にみられるように、在職時、退職後を問わず、従業員・社員が社内から持ち出した情報が不正競争防止法上の「営業秘密」に該当する場合には、その持ち出し行為自体や漏洩、使用等の行為が同法上の不正競争行為や営業秘密侵奪罪となる可能性があります。

しかも、営業秘密侵害罪には法人の両罰規定があり、受け入れた法人(かっぱ寿司)の責任も追求される場合もあります。

営業秘密の持出し等があった場合の対抗策

「営業秘密侵害行為」が行われた場合(本件では、はま寿司側)は、以下のような対抗策を取ることができます。

民事的措置

差止め請求

営業秘密侵害行為によって、営業上の利益を害され、また、害されるおそれがある場合には、会社はその行為者に対して、行為の差し止めを求めることができます。

損害賠償請求

会社は営業秘密侵害行為により自らが被った損害について、その行為者に対し、損害賠償を求めることができます。

また、通常、損害賠償請求においては、問題となった行為から損害が生じたという因果関係や損害額について立証することが困難となる場合が多いところ、不正競争防止法では立証の緩和のための損害額の推定規定が置かれていますので、これらの規定を利用することでより立証がしやすくなります。

信用回復措置請求

営業秘密侵害行為によって営業上の信用を害された場合は、その行為者に対して、信用の回復に必要な措置を取らせることができます。

具体的には、謝罪広告や取引先に対する謝罪文の発送などが考えられます。

刑事的措置

不正競争防止法では、9類型の行為を営業秘密侵害罪と定め、刑事罰の対象としています。

営業秘密侵害罪の対象となる行為

営業秘密侵害罪の対象となる行為の概要としては、不正の手段によって営業秘密を取得し、自ら使用しもしくは第三者に開示する行為や、そのような行為によって開示を受けた者がさらに使用・開示する行為です。

刑罰

営業秘密侵害罪に該当する行為に対しては、10年以下の懲役または2000万円以下(第21条3項の罪については3000万円以下)が科される可能性があります。

<法人の両罰規定>

法人の業務に関して営業秘密侵害罪が行われた場合、行為者のみならず、法人についても、5億円(第21条3項の罪については10億円)以下の罰金が科されることがあります。

営業秘密侵奪罪に該当する可能性がある場合、速やかに刑事告訴の検討を行うことが重要です。